持つべきものは妙なこだわり

執着はいずれ愛着に変わるのである

フィレンツェ、ピサ Firenze, Pisa 2009.7.26-7.28

 どうでもいいことだけれど、僕は"Firenze, Santa Maria Novella"の発音がどうしようもなく気に入ってしまい、突然口ずさんでいたらしい。さてその中央駅前の広場から伸びる道を4分ほど進んでいったところに宿があった。目の前にスーパーもあってナイスなポジショニング。船酔いやら何やらで疲れていたので、その夜は適当に夕食をすまし、冷房が運良くついていた部屋でぐっすりと眠った。
 翌朝目覚めたのは、初めての8時台(遅いという意味で)。朝飯は相も変わらずスーパーで調達したもので十分、駅からピサ Pisa へと向かう。フィレンツェーピサ間はローカル列車で1時間ちょい、ピサの駅から斜塔などがある広場まではバスで10分弱。塀にかこまれた、隔離された空間にあの有名な塔が建っていた。予想していたよりはだいぶ小さかったが、その一方で細工は細かく、きれいだった。皆が皆、塔が倒れるのを防ぐポーズで写真を撮っていたが、自分もそんなミーハーに仲間入り。さて、塔に上ろうと列に並びにいくが、警備のおばさんに「チケットあっちだ」と言われ、買えるチケットは3時間後のものだと知ってがっかり。チケットに上る時間が書いてあって、その時間に塔の前に集合という仕組みだ。しかもめちゃ高かった(15ユーロだったかな?)ので、隣にどーんと居座っている大聖堂だけ見学して帰ることにした。実はその大聖堂もちょっとだけ傾いている。
 フィレンツェに戻ると、当然ながら花の大聖堂 Santa Maria del Fioreへと向かう。淡い白・ピンク・緑で装飾された外装は本当にきれいで、思わず「おおお」と感嘆の息が漏れる。クーポラ(丸いドームの部分)は「丘」と形容されるのもうなずけるほど大きく堂々たり。中に入ってみると、外とは打って変わって地味。それがかえって神聖な雰囲気を醸し出していた、ような気がする。ともかくも外の印象が強すぎた。さて、「冷静と情熱の間」は観ても読んでもいないけれど、てっぺんまで上らなければならない。壁の中にある何百段の階段をのぼるわけだが、壁の落書きには本当に情けなくなる。遺産を未来永劫、いい形で残していこうという気持ちはまったくないのだろうか。しかもアルファベットの中にたまにある日本語は目立つ。そんな憤りは感じたが、なんとか頂に到達すると、そこにはすばらしい景色が待っていた。写真もきれいに撮れたが、写真には納まりきらない何かがあった、と書いてもおおげさではない。まあ、だからこそ旅に出ることが楽しいんだ。夕日になりかけのだいだいの光と茶色い屋根は見事に合っていて、そのうえに鐘楼の鐘が鳴ったときにはもうしびれました。
 夕日が沈むタイミングに合わせ、ヴェッキオ橋 Ponte Vecchioに向かう。宝石店はそのときにはもう閉まっていたが、夕日のシャッターチャンスを待つ人でいっぱいだ。8時にも関わらずまだ太陽は地平線に近くはなく、橋を超えた反対側にあるピッティ宮に立ち寄った。現地の学生らしき人たちが建物の前の石畳のうえにすわり、夕涼みの中で談笑していた。いい雰囲気だな、と水分補給しながら遠目に眺めたあと、橋に戻る。するとなんとナイスなタイミングだろう、まさに日が沈まんとしているではありませんか。旅には必須のちっちゃな三脚をたてて、写真におさめた。
 結局時間の関係でウッフィツィ美術館やメディチ家礼拝堂などには行けなかった、この街もまた来なければならないな。翌朝、響きを気に入っていたサンタ・マリア・ノヴェッラ教会 Santa Maria Novellaだけは見学した。寄木細工のようなファサードは味がある。別れを惜しみつつも、駅から北へと出発した。