持つべきものは妙なこだわり

執着はいずれ愛着に変わるのである

未来と他人という、分かり得ないものに向きあうことがエンジニアリング:『エンジニアリング組織論への招待』広木大地

【追記 2018.11.09】
本書の出展、参考文献を調べ公開している人がいないかと検索していたら、目的は達成されなかったものの、自分のamazon 書評が2018.11.09時点でトップコメントになっていました。ありがとうございます。
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再読しながら、出展を自ら調べるか…


ソフトウェアエンジニアリングが題材ではあるものの、エンジニアリングに関わる者(経営者、営業部門も勿論)すべてに新しい視点や手法を見せてくれる、良書です。内容や手法が多岐に渡るため私は1回読んだだけでは消化しきれていませんが、新鮮なうちに読書録を付けておきたいと思います。

世の中に分からないものは2つ、未来と他人。この2つの不確実性と向き合うのがエンジニアリング

テーマは一貫しています。世の中には原理的に分かり得ないものが2つあり、それは「未来」と「他人」。この2つの不確実性と向き合うのがエンジニアリングであるということです。

未来が分かり得ないことは多くの人が意識しているものの、他人が分かり得ないものだということは兎角忘れがちです。本書は特に他人について、つまり「分からない他人とどのようにプロダクトを作っていくか」という点に注力しています。

  1. 個人…自分の心)
  2. 一対一…自分と上司、メンティーとメンター
  3. 少人数の多…チーム
  4. 大人数の多…組織

という順序で丁寧に「ありたい姿」とそれに向かう手法を説明していきます。

十年近くエンジニアとして働いてきた私はここ数年でようやく「エンジニアという仕事は、図面やモノやコードではなく、人と向き合う仕事だ。人を仕事の対象にするのはなんて難しいんだ」という考えに至っていたので、我が意を得たりと、喜々として読み込んでいきました。

バズワードを再定義

アジャイル、リーン、技術的負債(これは私にとっては初めて知る言葉であった)というバズワードを日本語で説明し直しています。このようなバズワードは、何かと分かった気持ちになるのが最も危険だという意識を持っていたがために、手を抜かずに説明する姿勢に信頼を置きました。

一方で書籍としては未完成・未熟なところもある

テーマと視点については多くの知見に富む本書ですが、書籍としては不十分なところがあると感じました。

図が非常に分かりにくい、出展が不明

この本の最も悪いところは、図が非常に分かりにくく、本文を読まない限りは誤解すら生じるところです。筆者以外の、理解が及んでいない人が描いたとしか思えません。
また、出展が示されている箇所が非常に少ないです。原典にあたろうとしてもそれが出来ない。熱心な読者にアクセシビリティと、引用・オリジナルを明記する真摯さを表して欲しかったです。

筆者の知る Best practice を示して欲しかった

紙面が足りないのかもしれないが、良い実践例を具体的に多く示して欲しかったです。理論的な理想像だけでは追体験を通じての腹落ちが得られず、眉に唾をつけてから読んだ箇所がままありました。将来、共著などでBest practice集が出版されることを期待します。