持つべきものは妙なこだわり

執着はいずれ愛着に変わるのである

潮騒 / 三島由紀夫: 爽やかさを感じる

潮騒 (新潮文庫)

潮騒 (新潮文庫)

 『金閣寺』で心打たれ、ボストンに来るときに持って来た『潮騒』だったけれど、じっくり腰をすえないと読めないと勝手に思い込み手を出していなかった。しかしその予想とは裏腹に非常に読みやすく、物語を始めて終えるのに必要十分な展開。悪く言えばまったく期待を裏切らない話の展開だったが、まったく不満なし、あっという間に読み終えた。ジャンルとしては恋愛小説に入ってしまうのかもしれないけれど、読んでいて爽快感があり、現代小説の恋愛モノとはいろんな意味で一線を画す。ミシマの日本語を操る技術はやはり凄絶。
 印象的だった場面は、安夫が新治に初江の写真を持っているかときいたところで、持っているのに「ううん、もっとらん」と応えた場面。なんだか、ものすごい人間じみていて好きな応えだ。