『魚にも自分がわかる』定説を覆す研究者ストーリーが面白い
『魚にも自分がわかる――動物認知研究の最先端』著者:幸田正典、ちくま新書
認知、認知神経、生物学に興味がある人や、研究者とはどのような方法で新たな学説を唱えていくかに興味がある人に勧められる本である。
人類が他の動物と不連続的に異なるわけはないだろうと思っていたこと、そして哺乳類ではなく「魚」にも自分が分かるというテーマに惹かれてこの本を読んだ。
まず、脳の構造や働きは、魚類と霊長類でそう大きく変わらないことが現在の新たな定説である(なりつつある)ことを知った。そして「鏡で自分を認識できる」「他人(他魚)を顔で認識する」など、自分が分かるすなわち他人と自分を区別できることの指標が人間・霊長類と同じであることに意外さを感じつつも、立ち止まって考えると当然であるなと腑に落ちた。
サイドストーリーではあるが、研究者がその分野での定説を覆すことの難しさ、大家とされる研究者との反対意見を主張し続けることの難しさを著者のエピソードから感じ、その生々しさがこの本を読んでいて最も面白かった。その観点が面白かったが故に、著者チームの説を根拠づける・反対意見に対処するための追加実験の紹介は少し多めに感じ、読み飛ばした。専門家を対象とした論文にはとても重要な要素だろうが、新書としては too much / too deep であると感じた。
『昆虫はすごい』(丸山宗利、既読)から始まり、このようなタイトルが濫用されているので玉石混淆のなかから「玉」を選ぶ目利きが要求されるが、生物学・認知神経科学に対する興味は尽きないので引き続き読書していこうと思う。積ん読して久しい『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール、未読) にも手を出したい。