持つべきものは妙なこだわり

執着はいずれ愛着に変わるのである

ウナギ、サンマの乱獲を憂えてばかりいないで、体系的知識を得たいと思った。『日本の水産資源管理』はデータと歴史背景を丁寧に記した良書

ウナギ稚魚の乱獲やサンマの漁獲高減少のニュースを見て、水産庁の体たらくを憂いてばかりいないで、実際この問題の本質はどういうところにあるのかの体系的知識を得たいと思いました。さすが錦糸町くまざわ書店である。このような私の要望にも応える本が平積みしてありました。

  • 『日本の水産資源管理』著・片野歩、阪口功(2019) 慶應義塾大学出版会

日本の水産資源管理:漁業衰退の真因と復活への道を探る

日本の水産資源管理:漁業衰退の真因と復活への道を探る

日本の水産資源管理の問題の一端を捉えているたとえです。

(リンゴが収穫できるのは<ブログ著者注>)農家がリンゴの収穫が減ったからといって、小さい実を根こそぎ採ったり、木そのものを切って売ったりすることがないからだ。まさかと思うかもしれないが、ニシンがほとんど消えてしまったのはりんごという金のなる木の「木」の部分にも手を出してしまったからにほかならない。
- 第2章 世界と日本の比較からわかる問題の本質 p.60

持続可能な漁業を成功させている、ノルウェーという水産資源大国を倣うべき例にとり、日本が今までどうしてきたか、今後どのようにしていくかを統計データをもとに丁寧に説明しています。くどいくらいに何度も異なる表現を使って著者が提唱するのは、

  • 科学的根拠に基づいて、漁業が持続可能となるように国別漁獲高を設定する
  • それを、漁船ごとに割り当てる(さらには漁船の大きさに応じて)

という方法です。獲ることのできる量が決まっているから、その中で最も稼ぎを出すために、質が良く大きい魚を取得するようにみんな動くというわけです*1

とはいえ、サンマのように、既に競争が激化してしまっているところに後から漁獲高を設定するのは非常に難しい。そこで、他の魚で実績を作り、その有用性を全員(国内・国外)で共有してから他の魚に広げていくという方法も提唱していました。この具体策には、妙に納得がいきました。無理が無さそうで実現性が高そうです。各国・各人ともに求めているのは、「たくさん魚を獲ること」ではなく「豊かな生活が持続的に出来ること」である、だから突破口ときっかけさえあればこのような管理は受け入れられるはずであると。

ノルウェーでは漁船も豪華で、船が寄港する港にも魚の加工業が盛んであり、子供達が漁業に携わりたいと思うような風景が広がっているそうです。後継者に悩む日本の漁業の風景からすれば、羨ましい限りだと思います。

魚を食べるという楽しみがなくなって欲しくないという気持ちが強く、何か出来ることはないかとこの本を手に取りました。感情だけに左右されないデータに基づいた知識をもつ人たちが増え、適切な世論を形成して政治・外交に影響を与えていくための一歩です。

*1:無論、これだけでうまく整うわけではありません。本文にはノルウェーなどの国が歩んできた茨の道も示してあります。