『音楽と数学の交差』著・桜井進、坂口博樹
平均律・純正律、等比・等差数列、素数などの言葉を聞いたことがあってその関係性に興味があるという人はさらりと読めて面白い本だと思う。そして、数学的だからきれいに整っているということではなく、むしろ行き着く先はランダムなのだという展望は、この本の読み始めでは想像していなかったものだった。なお、リーマン予想やゲーデルの不完全性定理の中身も軽く触っている程度なので、そういうものがあると受け流す姿勢で読むのが良いと思う。
地元の三省堂書店の特集棚で見かけたことをきっかけに読んだ。音の高さと(ピアノでいう)鍵盤の関係は指数対数の関係にあることは知っていたし、J.S.バッハの作る曲は緻密に計算・設計されているといった事からも音楽と数学の関係を深掘りするこの本の趣旨には大変興味をもった。
平均律、純正律、ピタゴラス音律の歴史と数学的な意味合いについてページ数が多く割かれているが、それだけ面白い。メロディーがスムーズに気持ちよく聞こえるには1オクターブを「比」の形で12等分した平均律、つまり2の12乗根ずつ高くなっていく音程が良い。しかしこれだと和音が気持ちよくない。和音が気持ち良いためには、例えばドとミは4対5の比率になっているのが良い。そうすると、「無理数は有理数の比では表せない」という壁に当たり、メロディーと和音を両方気持ちよく聞かせるような音程を鍵盤楽器などでは調律できないのである。
このような話題を取り扱っているのは期待通りだったが、例えばコード進行理論の数学的解釈や、「売れる」音楽の数学的分析といった内容も期待していた私にとっては期待外れだったところもある。しかしそれもこの本の最終章(対談形式)を読めば理由が分かった気がした。著者たちは、数学が最近行き着いてきている「ランダム性」、ランダムを心地よく思う領域に音楽も突き進んでいって欲しいっという思いが綴られている。従って、従来の楽典やその理解は他の本に譲っているように感じた。
将来の音楽についての最終章を読んでいると、ストラヴィンスキーの『春の祭典』やradiohead の OK comupter のように、初見(初聴?)では「気持ち悪い」ものほどハマるという経験を思い出した。気持ち悪さ・違和感こそ芸術だという岡本太郎の言葉もある。40歳に差し掛かる年齢にもなり、ややもすると心地よさ・懐かしさに落ち着いてしまうが、違和感・気持ち悪さを避けず、むしろ新しい興味のサインであると認識していきくよう気をつけたい。