持つべきものは妙なこだわり

執着はいずれ愛着に変わるのである

時間変化とドラマチック要望本能を意識して世界を認識しよう:『ファクトフルネス』ハンス・ロスリング

『ファクトフルネス』著:ハンス・ロスリング

ミリオンセラーであること、勝間和代さんも複数回引用していることから気になっていたものの読んでいなかった。先に読んだビルゲイツの『地球の未来のため僕が決断したこと How to Avoid a Climate Disaster』(関連記事の項で後述) の最後の方で引用されていたことをきっかけに、手に取った。

私にとって重要だった、この本のメッセージは以下の3点。

  • 『(まだまだ)悪い状態だ』と『よくなってきている』は共存できる。時間変化を認識していない場合が多いので注意する。
  • ドラマティックに喧伝・吹聴された結果の二次的な情報を自分の知識としていることを認める。そして、よくなってきているという事実や情報は流通しにくいこと、ドラマに都合の良い古いデータが持ち出されがちであることも注意する。
  • 値が提示されたら割合を、割合が提示されたら値を考える習慣を身につけると、数に惑わされにくくなる。

折しも 2022/8/27-28 でアフリカ開発会議 (TICAD) が開催されたが、「アフリカがいまどういう状態にあるか」についての歪んだ認識がわずかなからも修正された状態で、この国際会議に関するニュースを読むことができたと感じる。

関連記事 (読書録)

ビルゲイツの『地球の未来のため僕が決断したこと』の最後のほうで、非常に簡単だが引用されていたことが読書に繋がった。
covacova.hatenablog.com

『音楽と数学の交差』それぞれへの興味の扉を再び開けるきっかけになる

『音楽と数学の交差』著・桜井進、坂口博樹


平均律純正律、等比・等差数列、素数などの言葉を聞いたことがあってその関係性に興味があるという人はさらりと読めて面白い本だと思う。そして、数学的だからきれいに整っているということではなく、むしろ行き着く先はランダムなのだという展望は、この本の読み始めでは想像していなかったものだった。なお、リーマン予想ゲーデル不完全性定理の中身も軽く触っている程度なので、そういうものがあると受け流す姿勢で読むのが良いと思う。

地元の三省堂書店の特集棚で見かけたことをきっかけに読んだ。音の高さと(ピアノでいう)鍵盤の関係は指数対数の関係にあることは知っていたし、J.S.バッハの作る曲は緻密に計算・設計されているといった事からも音楽と数学の関係を深掘りするこの本の趣旨には大変興味をもった。

平均律純正律ピタゴラス音律の歴史と数学的な意味合いについてページ数が多く割かれているが、それだけ面白い。メロディーがスムーズに気持ちよく聞こえるには1オクターブを「比」の形で12等分した平均律、つまり2の12乗根ずつ高くなっていく音程が良い。しかしこれだと和音が気持ちよくない。和音が気持ち良いためには、例えばドとミは4対5の比率になっているのが良い。そうすると、「無理数有理数の比では表せない」という壁に当たり、メロディーと和音を両方気持ちよく聞かせるような音程を鍵盤楽器などでは調律できないのである。

このような話題を取り扱っているのは期待通りだったが、例えばコード進行理論の数学的解釈や、「売れる」音楽の数学的分析といった内容も期待していた私にとっては期待外れだったところもある。しかしそれもこの本の最終章(対談形式)を読めば理由が分かった気がした。著者たちは、数学が最近行き着いてきている「ランダム性」、ランダムを心地よく思う領域に音楽も突き進んでいって欲しいっという思いが綴られている。従って、従来の楽典やその理解は他の本に譲っているように感じた。

将来の音楽についての最終章を読んでいると、ストラヴィンスキーの『春の祭典』やradiohead の OK comupter のように、初見(初聴?)では「気持ち悪い」ものほどハマるという経験を思い出した。気持ち悪さ・違和感こそ芸術だという岡本太郎の言葉もある。40歳に差し掛かる年齢にもなり、ややもすると心地よさ・懐かしさに落ち着いてしまうが、違和感・気持ち悪さを避けず、むしろ新しい興味のサインであると認識していきくよう気をつけたい。

気候変動問題を技術目線で解決に挑む -- 『地球の未来のため僕が決断したこと』ビル・ゲイツ

『地球の未来のため僕が決断したこと』著:ビル・ゲイツ

子供時代に地球環境保護にとても興味があったことを、皮肉にも昨今の気象異常が定常化していることで思い出し、さらにビルゲイツが気候問題解決に精力的に活動していることも知っていたのでこの本を手に取った。

私がこの本を読むことで、「著者が伝えたいだろうこと」かつ「私が新たに得た知識、あるいは再確認した重要な事項」に当てはまるのは以下だった。

  • 温室効果ガス排出量を510億トン (2021年) からゼロにする必要があること。単なる削減ではない。
  • これを技術で実現することで、クリーンな電気・製品などを既存の製造方法と同じ値段で買えるようにする必要があること。
  • この過程で強いる貧困層・貧困国への支援を惜しまないこと。

問題を構造的かつ定量的に捉えるために数値で示しているので、今後自分が新たな情報に触れるときにもとても参考になる。例えば、年間の温室効果ガス排出量が全世界で510億トンであることや、モノ(材料)を作るということが排出の30%以上を占めていること。

技術革新により、カーボンフリーな電気などを既存の方法で同じくらいの価格で買えるようにしないと、カーボンフリーは普及しないというドライな考え方に納得できた。具体的な技術項目リストを挙げてくれていた (本を手に取ったときの) 期待通りだったが、それぞれの技術が現在どういった研究開発段階にあるのかについてはもう少し詳しく知りたかった。

ゲイツの貧困国に対する配慮が彼の姿勢の柱の1つであることも知れた。気候変動の影響を受けるのは、なにも悪いことをしていない貧困国や層であり、彼らを積極的に支援しなければならない、など。なかなか実践が難しそうであるが、この課題に触れていること自体に意味がある (読者への啓蒙として)。

これ一冊で気候変動の原因や対策を論じることは出来ないが(それはゲイツも分かっていて書いている)、大雑把に全体像を把握しつつ技術の目線でこの問題を意識する土台を作るにはとても有用だった。地球環境保護や気候変動問題に関する次の書籍をパラパラめくったときに、良著かどうかを見極めることが少しは出来るようになったと思う。

この本にも登場する話題だが、植物ベースの肉を試しに食べてみた。バーガーキングのプラントベースのハンバーガーだ。予想以上に美味しかった。言われなかったら気付かないだろう。ハンバーガーのおいしさの大半はケチャップとマヨネーズなのだなと確認しつつ、今後も半分くらいの頻度でプラントベースを食べていくと思う。

ところで読書メーターを始めて、そちらにも投稿しました。
こばこば - 読書メーター

信頼できる情報をたぐる技術を鍛える -- 『プロ司書の検索術』

【2021/10/01(金) 追記】関連する本ブログの記事を、最後に引用した。



『プロ司書の検索術 -- 「本当に欲しかった情報」の見つけ方』入矢玲子・著 (日外アソシエーツ)

司書のプロであり、情報リテラシーの啓蒙に現在努めている著者が、本当に欲しかった、かつ、信頼できる情報にたどり着くための技術や考え方に凝縮した本である。

読みたい本リストにあったのだが、はてなブックマークの人気エントリに以下の記事が上がってきたのがきっかけで、図書館で借りて読んだ。2019年9月15日の記事だが、選挙前だからなのか、ちょうど2年後の2021年9月15日に話題となっていた。
www.nishinippon.co.jp

司書のAI化については、奇しくも著者が本書「あとがき」にて言及している。

たとえば私専門のレファレンスサービスについて言えば、いずれはAI司書がすべてを取り仕切るようになると想像しています。しかし、どのようなAI司書がふさわしいかを考え、企画して実現させるのは人間です。

司書がどういう風に検索にあたっているかや、司書を活用しよう、という内容は勿論、Google 検索 (私は最近 DuckDuckGo を使っているが) のみではたどり着きにくい情報への入り口を具体的なサービス名・サイト名で紹介しているところがとても有用であった。

思い込みを外していく、連想していく

前者に関して、探している本人の思い込みを疑い、それを外していく視点は面白い。はてな界隈では人気が高い福井県立図書館の覚え違い特集が本書でも紹介されているのだが、笑えるが (自分もやっているなと思い出すと) 笑えない、分かり易い例だと思う。
福井県立図書館 | 覚え違いタイトル集

検索時に「連想する」という姿勢は、考えたこともなかった。それはやはり自分が検索しようとしている情報 (その元となるキーワード) が正しい、最も近道だという思い込みがあるからなのだと思う。連想という文脈で紹介されているわけではなかったが、国会図書館のリサーチ・ナビが学術分野の連想図 (樹形図) を出してくれるのがとてもワクワクした。検索窓に何でも良いのでキーワードを入れてみよう、お試しあれ。このリサーチ・ナビは探検のしがいがある場所だと思った。
rnavi.ndl.go.jp

信頼できる情報元

自分の場合、情報の信頼度に特に気を付けるのは医療情報である。Google (日本語版) で医療関係の検索をすると数々のアフィリエイト記事・デマ記事が上位に表示されて問題となり、改善されたことになってから久しいが、査読された論文でもないので結局素人は判断ができない。先日、腰椎の椎間板ヘルニアに一時的になった (という表現が正しいか不明) 際も、経過観察が一般的だという内容を受け入れきれずにいたが、以下の「Mindsガイドラインライブラリ」ような診療ガイドラインデータベースを知っていれば気の持ちようも変わっただろうと思う。
minds.jcqhc.or.jp

すべて紹介しないが、本書ではこのようなデータベースを複数件、分野別に紹介している。

私は司書レファレンスサービスを使うだろうか

体系的知識を獲得するならば書籍、しかも学術書・専門書。これは疑う余地がほとんどないが、その書籍にたどり着くまでに司書レファレンスサービスを使う日が来るだろうか。この本のおかげで、10件以上有用な「お気に入り」サイトが増えて活用するつもりだが、司書さんにお世話になる日は少し遠い気がしている。

余談:私の今の図書館の使い方

  • 気になった本を図書館で借りる
  • 目次、本の雰囲気を掴む。気になったところを読む。全部読まなくても良い。
  • 読破しなかった場合「もう読まなくてよい」「もう一度借りる」「買ってゆっくり読む」のどれかを選ぶ

図書館から借りている2週間で読破する必要は無い、と割り切ってからは図書館の活用がぐっと広がった気がしている。ご参考になれば幸い。

関連書籍・記事

『図書館のプロが教える "調べるコツ" 』浅野高史・著
数年前に読んだが、この記事で紹介している『プロ司書の検索術』ほどの「読んでよかったー!」感は得られなかった。

2018年にこのブログで記事も書いていた。
covacova.hatenablog.com


図書館から借りた本は読み切らなくて良い、というスタンスについてはこちらにも言及した。
covacova.hatenablog.com

2020第1次緊急事態宣言から野菜・果樹・植物を育てて分かってきたこと

2020年3月の第一次緊急事態宣言から自宅にいる・自宅から出られない状況が生まれ、家で出来る楽しみとして野菜・植物を育ててきた。それまでも育ててはいたが、毎日観察する時間がなかったため、この1年間ちょっとが「付き合い」としては濃厚である。自分の次のチャレンジのために一度知識を整理して、それが在宅ガーデナー・ベランダーに役立てば嬉しい。

何のために、何が楽しくて野菜・植物を育てるのか

これをはっきり意識するのが大切だと思う。特に家庭菜園の野菜・果樹に対して。
自分を含めて多くの家庭菜園場合、野菜・果樹を自給自足のために育てようという方はいないだろうと思う。それはもはや仕事であるし、仕事であってもすべての食材を自給自足をしきれるものではない。
では何のため育てているかというと、

  • 植物がどう育つかを観察して知り、驚きを得る
  • 芽、花、実、などの大きな変化を楽しむ
  • できれば、収穫とそれを食べるという達成感を得る

ということだと思うが、3つ目を重視しすぎて他を忘れてしまいがちだった。

野菜や果物の収穫が出来ないととても落ち込んでしまっていたが、よく考えて診れば、うまい野菜を食べたいのならばプロが作った野菜をスーパーなり通販なりで買うのが正解なのである。家庭菜園のでの楽しみは、毎日の変化を楽しむものだと割り切って、運が良ければ収穫を楽しむくらいに考えたほうが気楽だ。そのうえで、

  • 今年はこうだったから来年はこうしようというPDCAを回す面白み

があると思う。これを面白いと思える人は、家庭菜園にはまると思う。

分かってきたこと

なぜ育てるのか、育てて何が面白いのかをはっきりさせたところで、実体験で分かったことを書き留めていく。

土、肥料

  • 素人が土をリサイクルしようとしても、土に残っている菌や虫を殺しきることができず、次の年の作物は育ちが悪くなる。庭があるなら、あまり敏感な植物がいないエリアに捨てる・土増しするのが良いかもしれない。
  • もともと野菜を育てるための土ではない庭を畑に耕すのは大変苦労をする。例えば石を取り除いたり、酸度を整えたり、腐葉土でふかふかにしたりと大変苦労がある。もしプランターでも育てられる植物ならばプランターが圧倒的に楽である
  • 土は既存の培養土を使っても、自分で赤玉土腐葉土ブレンドしてもどちらでも良いと思う。混ざっている培養土は自分で混ぜる手間がないので手早い。自分でブレンドができるようになっていると土増しがとてもスムーズにできる
  • ブルーベリーは酸性の土が好きで、ピートモス鹿沼土を必ず混ぜないといけないと思っていたが、それにこだわりすぎる必要もないらしい。ピートモスは水を弾いてしまって水管理がやりにくいので、赤玉土なども使うのが良いらしい。来年の植え替えのときに実践予定。

環境、温度

  • 種まき (直まき、ポット蒔き) の時期が適切な時期よりも早いと温度が上がりきらず植物が弱ってしまう。2021年春、オクラを早く植えすぎて、全然気温が上がらずすっかり弱ってしまった。
  • 季節によって日当たりが場所によって全く異なってくる。ベランダ及び庭の土の上の日当たりが季節によってどう変わってくるかを把握して、それに応じた作物を育てる・移動する必要がある
  • プランターは季節によって変わる日あたりに対応するように移動させることができるのが大変便利である
  • ミニトマトは強い、育ちやすい。毎年必ずこれは植えて収穫の楽しみが絶えないようにすると他が多少うまくいかなくても落ち込むことが少ない

虫、鳥

  • 自分の庭およびベランダの環境によって虫に食われやすい育ちやすい植物が決まってくる。これは教科書通りにはいかない、その土地に従うしかない
  • 農薬を使わない場合、どうしても葉っぱや作物を虫に食われてしまう。虫に食われても良いくらいの収穫ができるような株を植えるか農薬を使うか食わなくても良いとするか、判断すべき
  • 中玉トマトは鳥害に悩まされた。鳥防止に最も効果があったのは、野菜が入っているセロハンのようなビニール袋をハサミで切って穴をあけ、水が溜まらないようにし、それをゴムバンドなので結わえ付ける方法だった。炎天下でセットアップはつらいがやる価値はあり

道具

  • 支柱を立てるのをサボってはいけない。例えばトマトはちゃんと高い支柱をピラミッド型に立てないと風で倒れてしまう。たいへんショックである
  • ベランダあるいは庭の道具、土肥料を置くための置き場あるいは箱の整備はとても重要。特に夏場は蚊と戦いながら作業する必要があるため、迅速に道具およびその他を引き出せるかどうかが勝負になる
  • ミニ熊手は超便利。プランターの土を柔らかくしたり肥料を混ぜたり。地植えにも使える。
  • テキストあるいは趣味の園芸NHKをつぶさに見るべき。全くの無知で取り掛かると、うまく育たない。完璧は目指さなくて良いが、育たないとやはり悲しい。テキストも本を複数個見るのがちょうど良い。一つのことではああ言っていてても他の骨は違うことを言っていたりする

その他

  • カボチャなど雄花雌花が別々に存在する種類では最低でも2株ぐらいは植えないと、雄花と雌花のタイミングが合わず、結局収穫が少なくなってしまう。雄花を冷凍したりしたがうまく受粉できなかった。
  • 元気な苗を選ぶのは重要。茎が太い、節の間が狭い、元気な株を選ぶかどうかで、その後の成長が全然違ってくる。ところでテキストによく書いてある「一番花が咲いている苗」というのは出会ったことがない

熟読した書籍

野菜を育てる

『藤田 智の 新・野菜づくり大全』
地植えを主としているがプランターでの育て方も書いてあり、共通事項も多い。何より、掲載している野菜の種類の量とそれぞれの情報量が多く、家庭菜園やるには必携じゃないかと思う。プランターに特化した本があったら知りたい。

果樹を育てる

『鉢で育てる果樹―植えつけから実がなるまで (別冊NHK趣味の園芸)』
『おいしく育てる はじめての家庭果樹 (生活実用シリーズ)』
少しずつ書いてある内容が異なり、1つの本が言っていることを鵜呑みにしてはダメだなと気付いた二冊。どちらに書いてあったか忘れたが、「果樹は育てやすさの点で選ばず、育てたいかどうかで選べ」というのが刺さった。果物がなるまで長いのだから、確かに様子見をしている場合ではなく、育てたい果樹をすぐに始めるべきだ。

剪定

地植えのアンズが何年経っても一切花を咲かせず、剪定が間違っているかもしれないと思って図書館で借りた。剪定の論理が分かってとても面白かった。得た知識の結果が分かるのは、来年春以降である。

関連過去記事

野菜や植物について、過去にも数回記事を書いてきた。
covacova.hatenablog.com
covacova.hatenablog.com